Last Updated on 10月 4, 2025 by kakehasi
はじめに
私は、鍼灸師としてではなく、言語聴覚士として病院や施設、在宅で多くのパーキンソン病を患った方のリハビリに携わってきました。言葉や飲み込みに障害が出るために、言葉の練習や食べる練習をともに行ってきました。病気が進行すると食べる事自体が困難になります。数口だけでもゼリーを食べたいといった希望があれば、医師の同意のもと窒息のリスクに配慮し、慎重に提供していました。進行の段階に合ったリハビリの提供や精神的な援助を重視していました。リハビリとしての私は、病と闘うのではなく、患者様とどう病と向き合い、どう付き合っていくかを一緒に考えていくのが主であったと思います。
パーキンソン病とは
「パーキンソン病は、黒質の細胞が変性することにより、ドパミン産生が低下し、スムーズに体を動かせなくなる神経変性疾患である。」
出典:病気がみえるVol.7 脳・神経(株式会社メディックメディア)
重症度分類として有名なHoehn&Yahrでは、stageⅠ「症状は一側のみ」からstageⅤ「立つことが不可能」までが定義されています。また、一般的には歩行などの運動障害が注目されますが、実際にはそれだけではありません。
「摂食嚥下障害は重大な予後決定因子である。」
出典:摂食嚥下リハビリテーション 第3版(医歯薬出版)
歩行障害よりも嚥下障害(食べることの障害)の方が命に直結しやすいと考えられています。さらに無気力、感覚障害、覚醒障害、うつ症状など多彩な症状もみられます。臨床の現場では、ご家族様がその多様な症状に戸惑われる場面も少なくありません。
重症度に応じて病院だけでなく訪問看護やデイサービスなどのサービスが利用できるため、抱え込まず上手に活用することが大切です。
もちろん西洋医学は日進月歩で進んでいるため、服薬など医師の指示に従うことは極めて重要です。
「服薬の急な中断による悪性症候群という危険な症状がある。」
出典:病気がみえるVol.7 脳・神経(株式会社メディックメディア)
鍼灸治療を受ける際にも、病院や各種サービスとの併用は必須といえるでしょう。
東洋医学的見解
『新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)』(南江堂)では、歩行異常の原因に「肺熱、脾気虚、湿熱、肝腎陰虚」を挙げ、それぞれに対する治療法を記載している。
「山元式新頭鍼療法 実践ガイド YNSA症例集」(医道の日本社)では、パーキンソン病に鍼灸治療を施すことで「便秘や抑うつ、不眠や痛みなどの自律神経症状が改善し、健康寿命を延長することができる」とされ、転倒回数が減少した症例も報告されている。
さらに同著では独自の脳幹や大脳のツボが記載され、それぞれの有効性が述べられています。
私の臨床経験から
パーキンソン病の患者様に鍼灸治療を施してきた経験では、当たり前ですが、全般的に早期に実施すればするほど実用的な歩行機能の維持がしやすいです。
また、比較的珍しいですが、歩行能力が低下した原因が足の指の拘縮による痛みが主であったケースでは、比較的早期に屋内でのスムーズな歩行を獲得される例もありました。また、進行が進んで歩行機能が著しく低下していた方でも、唾液を飲み込めずタオルで拭くしかなかった状態から、比較的スムーズに唾液の飲み込みができるようになったケースも経験しました。
このように、それぞれの重症度に応じて鍼灸治療が改善に寄与する可能性を経験させていただきました。
鍼灸治療とリハビリの相性も良く、鍼灸治療で活性化された状態で筋力トレーニングを行うことで、筋力低下による機能障害を予防できると考えられます。また発声面でも、声が出にくくなった方に鍼灸治療を施した上で発声訓練を行うと、より効果的に声量増大訓練が実施できました。
まとめ
私自身の経験からも、西洋医学と鍼灸治療を併用することで、パーキンソン病患者様の健康寿命を延ばすことにつながると実感しています。
鍼灸治療は決して西洋医学に代わるものではなく、リハビリや服薬と「併用する」ことで相乗効果を発揮します。
患者様やご家族が病と向き合い、より豊かな生活を送れるよう支援していくことが、鍼灸の役割の一つであると考えています。
執筆者
寺田 りょう(鍼灸師/言語聴覚士)
名古屋市南区「かけはしはり灸院」院長
東洋医学に基づいた伝統鍼灸と現代的なリハビリの視点を融合させ、心身のバランスを整える施術を行っています。