Last Updated on 9月 27, 2025 by kakehasi
はじめに
出典:大類孝、海老原孝枝、荒井啓行「高齢者肺炎・誤嚥性肺炎」日内会誌2010によれば、高齢者の肺炎の約70%が誤嚥性肺炎であると報告されています。高齢化社会において無視できない病気の一つです。
私自身、鍼灸師であり言語聴覚士でもあります。病院や施設で誤嚥性肺炎予防のリハビリに携わってきた経験から、その重要性を痛感しており、本記事では鍼灸治療がどのように誤嚥性肺炎予防に役立つのかを解説します。
※ここでは高齢者の誤嚥性肺炎予防に焦点を絞って解説します(嚥下とは「食べ物を飲み込むこと」を指します)。
高齢者特有のフレイル
出典:「摂食嚥下リハビリテーション 第3版」(医歯薬出版)
同書は「高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに関して、ここ10年で大きな変化が起こっているが、根幹にあるのはFriedらによるフレイルの概念の導入である」と述べています。
出典:『新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)』(南江堂)
同著ではフレイルを「加齢に伴うさまざまな機能変化や予備能力の低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態」と定義し、「早期発見・早期治療がフレイルからの脱却や機能障害発生の予防に重要である」と述べています。
以上より、フレイルの予防は誤嚥性肺炎の予防、ひいては介護予防につながると考えられます。
誤嚥性肺炎予防のリハビリ
言語聴覚士としての臨床経験から、誤嚥性肺炎予防では以下のような多面的なアプローチが有効です:
- むせる力を高める呼吸リハビリ
- 嚥下関連筋群の筋力トレーニング(飲み込む力の強化)
- 口腔ケアによる口腔内環境の改善
これらを組み合わせることで、誤嚥性肺炎の予防や再発防止につなげてきました。
東洋医学的見解
出典:『新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)』(南江堂)
同書では「腎精の衰えに伴い身体は衰弱する」「高齢者には腎虚に伴う反応が現れる」とし、腎虚の症状として「関節の痛み、肩・背中の重怠さ、動作の緩慢、ふらつき、記憶力の低下、反応の低下」などを挙げています。
この腎虚の概念は、現代医学でのフレイル概念と符合すると考えられます。したがって、鍼灸で腎を補い生命力を高めることが、フレイル予防・誤嚥性肺炎予防につながる可能性があります。
当院の誤嚥性肺炎予防へのアプローチ
当院では以下の組合せで誤嚥性肺炎予防に取り組んでいます:
- 伝統的鍼灸術による「腎」の強化(生命力の向上)
- 言語聴覚士としての嚥下リハビリ指導やセルフケア提案
臨床例として、90代の方に「吹き戻し(おもちゃ)」を自主訓練として取り入れていただいたところ、最初は数回しかできなかったものが徐々に増え、最終的には一日100回以上行えるようになりました。結果としてむせる回数は大幅に減り、腹筋の改善により便秘が解消するなど生活全体が改善しました。
ぜひ当院で、生命力を強化しセルフケアに取り組んでみませんか。
参考文献
- 大類孝、海老原孝枝、荒井啓行「高齢者肺炎・誤嚥性肺炎」日内会誌2010
- 摂食嚥下リハビリテーション 第3版(医歯薬出版)
- 新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)(南江堂)